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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)42号 判決

原告

ロヂ・ウント・ウイーネンベルゲル

・アクチエンゲセルジヤフト

右代表者共同支配人

ウイリー・フリツカー

ヘルムート・シェルホルン

右代理人弁護士

ローランド・ゾンデルホツフ

右代理人弁護士

牧野良三

右代理人弁理士

田代久平

右代理人弁理士

田代蒸治

被告

株式会社マルマン

右代表者

片山豊

右代理人弁護士

向山隆

弁理士

丹生藤吉

安藤政一

土橋秀夫

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

この判決に対する上訴のための附加期間を九十日とする。

事実《省略》

理由

(当事者間に争いのない事実)

一本件に関する特許庁における手続の経緯、本件特許発明の要旨および本件審決理由の要点が、いずれも、原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二1 前記当事者間に争いのない本件特許発明の要旨および成立に争いのない甲第四号証(本件特許発明の公報)によると、本件特許発明は「中空リンクおよびこれを互に関節的に、かつ、伸延可能に結合し発条作用に抗して旋回し得べき結合リンクより成れる伸延可能なるリンクバンド、殊に腕時計用バンド」であり、

(1)  空中リンクが任意の断面形の円筒状鞘10、のバンド縦方向において互いに転位せられた二組により形成せられれていること

(2)  結合リンクがバンド縦縁中に設けられたU字形結合彎曲片により形成せられていること

(3)  該結合彎曲片は各二個ずつその一方の脚15をもつて一方の組の鞘10の開放端中に挿入せられ、その他方の脚16をもつて他方の組の転位して位置する隣接せる鞘11中に挿入せられ、かつ各鞘中には結合彎曲片を鞘中に確保しかつバンドの伸延あるいは彎曲にさいし発条的に反対作用する彎曲板発条が設けられていること

の要件から成るものであることが明らかであるところ、とくに「本発明は伸張可能なるリンクバンド殊に腕時計バンドに係る而して該バンドは中空リンク及之を互に関節的に且伸張可能に結合し発条作用に抗して旋回し得べき結合リンクより成る本発明の要旨とする所は中空リンクが任意の断面形の円筒状鞘の互にバンド縦方向に転位せられたる二組に依り形成せられ結合リンクがバンド縦縁中に設けられたるU字形結合彎曲片に依り形成せられ該結合彎曲片は各二個づつその一方の脚を以て一方の組の鞘の開放端中に挿入せられその他方脚を以て他の組の互に転位して位置する隣接せる鞘中に挿入せられ且各鞘中には結合彎曲片を鞘中に確保しバンドの伸延或は彎曲に際し発条的に反対作用する彎曲板発条が設けられたる点に存す」「本発明に依るリンクバンドは極めて大なる伸張性及可撓性を有するを特徴とす……更にリンクバンドは……鞘、結合彎曲片及板発条より組成せられ之に依り各部分は鑞着或は鋲着を行なうことなくして組立てらるるを以てその設計及組立は著しく簡単となり且その製作は著しく経済的となるべし従て各部分は又容易に交換せらるることを得最後に使用板発条が生起する弾性負荷に対して著しく抵抗性なるを以てその弛緩或はその破損の恐れなきことは特に有利なることなり」との記載を総合して考量すると、本件特許発明は、リンクバンドに極めて大きな伸張性および可撓性を有せしめることを発明の主たる目的とし、鞘結合彎曲片および彎曲板発条の三部材を、彎曲板発条の張力を利用して弾性的に関節連結することによりこの目的を達したものであることが認められる。

2 他方、(イ)号発明の特許公報によると、(イ)号発明の要旨は「管状鎖片の内部に両端部を各反対の方向に折曲げた側面ほぼS字形の一対の棒状鎖片の一端部を互に対向させて嵌入し、其の他端部を各隣りの管状鎖片の内部に於いて夫々次の枠状鎖片の折曲一端部と相対向させて嵌入して交互に連鎖し枠状鎖片の各両端部を之と管状鎖片の内底面との間に収容した帯状弾板によつて各枠状鎖片が常に弾性的に直立して常に縮小状態にあらしめたことを特徴とする腕鎖」であるものと認められ、とくに、「本発明は両端縁部2、2を互に対向するように折曲げた管状鎖片1の管部内に枠状鎖片3の支杆5を嵌入することによつて多数の管状鎖片1と枠状鎖3とを交互に連鎖して成る通常の該各管状鎖片1をほぼ十字形の金属板の両端縁部2、2を互に対向するように折曲げて中央部にほぼ角形の管状部を形成し且両側縁に帯状弾板6の脱出を阻止する折曲部を設け又枠状鎖片3を側面ほぼS字形に折曲げて各その一辺をなす支杆5、5を前記折曲両端縁部2、2の下面に重合密接させるべく之を管状鎖片1の底面に敷設した帯状弾板6により常に弾圧せしむることによつて各枠状鎖片3の左右両面を常に各管状鎖片1の側面及び下面に可及的に弾性的に添わしめるように構成したことを特徴と」とする旨の記載および「次に鎖帯を緊張した場合には上下各列の管状鎖状鎖片1相互の間隙を増大しようとして各枠状鎖片3の全体は旋回し之に伴つて各支杆5、5の縁辺は何れも帯状弾板6の弧状面を抑圧しつつ回動して管状部の内底面の方向に接近するから反撥しようとする帯状弾板の弾力によつて常に原形に覆する傾向を以て鎖帯が伸長するものであるが、其弾力は枠状鎖片3の僅少一部である端部の支杆5の辺縁のみに作用するに過ぎないから鎖帯全体に対し付与する弾性は強きに過ぎず、併かも微妙に作用し腕に嵌め外しに際して鎖帯を伸長する場合の抵抗力は少く従つて装着は容易に行わるるばかりでなく其の伸長範囲は枠状鎖片3の横杆の長さの総和にほぼ相当し頗る増大するから此点に於いて在来の伸縮鎖に比し伸長度に於て遙に優れて使用上甚だ利便で」ある旨の記載を総合して考えると、(イ)号発明は、きわめて大なる伸長度をえるために、管状鎖片、S字形の枠状鎖片および帯状弾板の三部材を、帯状弾板の弾力を利用して、各枠状鎖片が常に弾性的に直立して常に縮小状態にあらしめることにより、その目的を達したものであることが認められる。

3 そして、前説示からも明らかなように、右両者の構成において、本件特許発明のU字形結合彎曲片に相当するものは、本件審決も認定するように、(イ)号発明においては、断面S字形の枠状鎖片3であると認めるのが相当である。

4 しかして、本件特許発明のU字形結合彎曲片と(イ)号発明の断面S字形の枠状鎖片3とが発明としての構成上相違するものといえるかどうかについて、検討するに、両者は、以下詳説するように、発明として、構造及びこの係合状態において相違するものと認めるを相当する。

結合片ないし連結片の形状、それによる連結方法およびそれと板発条(帯状弾片)との関連構成の点についてみるに、本件特許発明においては、

(1)  結合リングは、バンド縦縁中に設けられたU字形結合彎曲片により形成され

(2)  結合彎曲片は、各二個ずつ、その一方の脚をもつて一方の組の鞘の開放端中に挿入され、その他方の脚をもつて他方の組の転位して位置する隣接した鞘中に挿入され、

(3)  各鞘中には、結合彎曲片を鞘中に確保し、かつ、バンドの伸延あるいは彎曲に際し発条的に反対作用する彎曲板発条が設けられている

ことは、前記認定したところから、明らかである。

これに対し、(イ)号発明は、

(1)  結合リンクは、リンク鞘(管状鎖片)とS字形に折り曲げられた棒状鎖片3とその一辺をなす支杆5、5とから成り、

(2)  連結片は、二個から成り、その上脚部(枠状鎖片の支杆)が一方の組の上部リング鞘の内部に嵌入され、その下脚部(前記支杆に相対する支杆)が他の組の転位して位置する隣接する下部リンク鞘の内部に嵌入され、

(3)  各リンク鞘中には、この連結片を鞘中に確保し、かつ、バンドの伸延あるいは彎曲に際し発条的に反対作用する板発条(帯状弾板)が設けられている

ことが認められる。

以上の事実からみると、両者は、ともに上下のリンク鞘、連結片(結合片)および板発条の三部材から成り、リンク鞘を連結片により関節的に連結し、かつ、連結片を板発条により押圧して鞘中に確保している点で同様の構成をとつてはいるが、連結片の形状において著しく異なり、しかも、本件特許発明において、U字形結合彎曲片を各二個ずつ用いて、それぞれの脚を上下各リンク鞘の各開放端に挿入することにより、バンド縦縁中に結合リンクを形成しているのに対し、(イ)号発明にあつては、上部リンク鞘の内側面に二個の連結片(枠状鎖片3)の一方の脚(支杆5)を嵌入し、そのそれぞれの他方の脚(支杆5)を、転位して位置する隣接した二個の下部リンク鞘の内側面にそれぞれ嵌入することにより、上下リンク鞘を一連に連結しているもので結合リンクがバンド縦縁中に設けられていない点において著しい差異がみられる(したがつて、また、その作用効果においても異なるところがあると推認される。)。

それゆえ、本件特許発明のU字形彎曲片と(イ)号発明の枠状鎖片3とは、構造、したがつて、その作用効果において相違するものというべく、これをもつて、単なる設計上の微差ということはできないから、この点に関する原告の主張は採用することはできない。

なお、原告は、本件特許発明の技術的範囲について、原告主張のとおり解釈すべき旨主張するが、仮りに本件特許発明がいわゆるパイオニアパテントであるとしても、本件に提出された全証拠をもつてしても、本件特許発明の技術的範囲を原告主張のとおり、解釈認定しなければならない理由を見出すことはできない。

(むすび)

三以上説述したとおりであるから、本件審決に原告主張の違法であることを理由として本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、結局、理由がないものというほかはない。よつてこれを棄却することとし、行政事件訴訟法第七条民事訴訟法第八十九条、第百五十八条を適用して、主文のとおり、判決する。

(三宅正雄 石沢健 奈良次郎)

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